法律事例に関するレポートで「法的三段論法で書きなさい」という指示があって書き方に戸惑う人は結構いると思います。法律事例の問題は原則、この論法が用いられるのでこの機会に少しでも理解を深めてもらいたいです。
法的三段論法とは
法的三段論法とは三つの段階に分けて文章を構成する手段を意味していて、法的問題に関する自分の意見を述べる上で主に使われています。法律事例の問題は原則、この論法が用いられるのでこの機会に少しでも理解を深めてもらいたいです!次の章で各段階の書き方を説明していきます。
法的三段論法の答案における書き方
今回は、AがBを殺したという事案を使います。
第一段階では、自分が用いたい前提(=法律)を述べていきます。例えば、刑法199条では「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。」と書かれており、人を殺したら罰せられるということが法律で定められています。ここでは「人を殺す」ということが刑罰を科せられる構成要件となっているのです。この「前提」を述べた上で次の段階に進みます。
第二段階では、今回の事例の具体的な状況と先ほど述べた「前提」に当てはめていきます。事例にある「AがBを殺した」という事実を前提で述べた刑法199条の視点から考えると、人を殺したという行為をAが行ったと解釈できます。ここの構成要件の当てはめの作業は、自分の価値観(ex私はAと仲が良いから刑法の条文に当てはめないでおこう…)でするのではなく判例や一般的な常識をもとに行います。
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そして第三段階では、これまで述べたことから結論を出して述べていきます。前述した解釈から、「Aは刑罰に課せられる」という結論を出します。
一般的に第一段階=大前提、第二段階=小前提、第三段階=結論とされていて、今回の事例を簡単に書き示すと以下のようになります。
大前提:人を殺せば罰せられる。
小前提:AはBを殺した。
結論:Aは罰せられる。
この三個の要素を踏まえた上で次に実際に答案を書く際、どのような順序で考えていくべきか紹介します。
(1)どの条文を用いるかの目星をつけておく
法的三段論法で言われる大前提に使えることが出来そうな条文をリストアップしておきます。答案を書きだした後に「この条文は結局使わなかったなー」と思えるぐらい余裕をもって書き出せると気持ち的にも余裕が生まれます。
(2)事例の問題提起を行い、検討していく
刑法の条文では、事例をそのまま構成要件に当てはめることが容易な場合が多いですが、憲法の条文は抽象的なものでありそのまま当てはめることが出来ません。
そこで行うことが問題提起です。ある事例において憲法に即して考える際、考慮する必要があるところを洗い出していく作業です。
その後、問題となる部分が憲法の保障する枠組みに入るのか検討します。このような解釈を規範定立と呼びます。
例えば、憲法22条2項では「何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない」とされていて、ここで出てきた「何人」という表現は本来、日本人のみならず全人類を対象としているはずです。
しかし、日本国籍から離脱することが想定されているのはおそらく日本国民であり、実際は「何人」と書いてあるものの「日本国民」を意味しているとされています。この場合「何人」を狭く解釈、つまり憲法条文を規範定立して結論を出しているのです。
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(3)結論を出す
問題提起と検討したことから事例の結論を出します。刑法では無罪や有罪の場合だと具体的な懲役年数などであり、憲法では合憲か違憲かの判断に当たります。
(4)構成を考え、実際に書き起こす
(1)~(3)までで答案に書く要素は準備できたのでそれらを書き出していく答案の構成を考えます。今回は法的三段論法をもとに述べていくので、大まかに大前提、小前提、結論の順番に区切って書き出します。そして、大前提と小前提の過程において、問題提起と規範定立が含まれているのです。
答案を書き出す際に、使えると便利なものがナンバリングと呼ばれるものです。ナンバリングとは、このブログでも使われている(1)や「第一に」といったような答案の文頭に書くもので、答案の構成を分かりやすくするために付けられています。私自身も実際に答案を書く際はこのナンバリングという手法に気を付けていて、次の章で書く解答例でも使っています。
法的三段論法の良い解答例と崩れた解答例
ここから法的三段論法を用いて以下の事例の具体的な答案を紹介します。
- 今回の事例ではS会社が社員の位置情報を把握することは勤務態度の確認が合理的な理由として認められるのか考える
- 憲法13条では、公共の福祉に反しない限り、生命、自由、幸福に対する追求権を国民は保障されており、「宴のあと」事件(東京地判昭39.9/28)より「正当の理由がなく他人の私事を公開することが許されてはならない」と判断されていることからプライバシー権も同条内で保障されている。
- 社員用の携帯電話に付いているGPS装置を使って勤務態度の確認をすることは正当な理由に当たるが、勤務時間外の社員の位置をも会社側に知られることは、受容できる程度を超えており、プライバシー権の侵害に値する。
- よって、S会社の勤務時間外のGPS装置による社員の位置把握は違憲である。
この答案では、「1」に問題提起をして答案での論点を明記しています。次に、大前提「2」の中で憲法13条の条項を規範定立し、プライバシー権の保障を導き出します。そして、小前提「3」で事例を当てはめ、結論「4」を導き出します。
- 今回の事例ではS会社が社員の位置情報を把握することは勤務態度の確認が合理的な理由として認められるのか考える。
- S会社が勤務時間外の社員の位置情報を把握することは「宴のあと」事件(東京地判昭39.9/28)で述べられているプライバシー権の侵害に当たり、憲法13条よりプライバシー権が同判例内で導き出されるとされている。
- よって、S会社の勤務時間外のGPS装置による社員の位置把握は違憲である。
良い解答例と問題提起の部分は同じですが、「2」の中では、大前提の規範定立と小前提の当てはめの作業の区別が曖昧になっています。原則、大前提には事案の具体的事項を述べてはいけません。大前提→小前提→結論の流れを明確に答案に書くようにしましょう。
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法的三段論法のおすすめ参考書
法的三段論法の書き方は以上です。ここでは最後におすすめ参考書を紹介して記事を締めます。
法的三段論法で書く際に条文解釈が難解な部分ですが、条文解釈を理解するのに私がおすすめする参考書が何冊かあります。
一冊目は『法律の条文解釈入門』~六法を引こう~(信山社 小室百合著)です。この本は答案を作成するための基本的事項や条文解釈の方法など書かれていて、法的三段論法で答案を書くことに慣れていない人には一度目を通してもらいたい一冊です。私も法的三段論法の答案を作成する際に実際に参考にしたもので、法律の専門用語は日常用語と大きく意味が異なるという事実などの、初めて知ることが多かったので非常におすすめです。
二冊目は『現代実定法入門』(弘文堂 原田大樹著)です。こちらは法学的思考の説明や様々な法律の概論が述べられているので法的視野を広げるのに有用です。他にも、図書館や書店では数多くの法学に関する本が置いてあるので、今回紹介したこれらの参考書だけでなく、一度法学の本を読んでみてください。