法律を勉強するにあたって必ず解くことになる事例問題。
皆さんの中には苦手な人も多いのではないのでしょうか。
一見難しくて書けないと思ってしまいがちですが、正しい書き方さえわかれば思ったよりも簡単に書くことができます。
本記事では課題代行業者『Yattoku』のスタッフである法学徒の筆者が、事例問題のくわしい書き方についてわかりやすく解説していこうと思います。
事例問題はなぜ重要なのか?
まず初めに、事例問題の重要性を説く前に判例と事例の違い、及び判例の大切さについて説明します。
事例と判例の違い
事例と判例の違いについて知らないひとも多いのではないでしょうか。ですのでここで両者の違いについて説明します。
判例:裁判所が類似の事件について類似の判決を繰り返した結果、そこにおのずからできた一般的な法則。
事例:問題製作者が実際に裁判にあった事件をもとに作った架空の事件。
そのため、事例問題を書く時には判例を参考にすることが肝心になってきます。
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判例の大切さ
民法は、周到かつ綿密に私たちの法律関係を定めています。そのため、規定されていることをそのまま事例に当てはめれば答えが出ると思う人もいるでしょう。
しかし、実際はすべての紛争に備えて細かく定めることはできず、ある程度は抽象的な表現にならざるを得ない為、判例を参考にすることが肝要になってくるのです。
これは問題を解くということだけに当てはまることではありません。実際の裁判でもとくに最高裁判所の判例はその後の裁判の基準になり、事実上条文に近い働きをするのです。
事例問題の意義
ここまで読めば判例の大切さは分かりましたね。しかし、判例だけ勉強すれば良いということではありません。事例問題も大切なのです。
確かにこれまであった裁判の判決を勉強することはとても重要です。しかし、裁判というものは必ずしも同じようなケースばかりではありません。
当然、今までにないケースも出てきます。そんな時、今までの判例を丸暗記しているだけでは解決することはできません。
その為、事例問題を解き、応用力をつけることが大切になってくるのです。
3ステップでわかる事例問題の書き方
まず、法規範に定められている要件は一般的・抽象的なものです。
このような要件に個別・具体的な事実が当てはまるかによって、効果が発生するかどうかが定まります。逆にいえば法で定められたことをあてはめるには、具体的に生じた事実が要件に定められた抽象的な概念に含まれるかどうかについての判断が必要となります。
その判断をする際に肝心になってくるのが「法的三段論法」です。
法的三段論法とは・・法が予定している要件に該当する事実に対して、法規範を具体化して適用し、ルールに基づいた法的効果を導き出す方法。
しかし、こんなことを言われてもよくわからないですよね。
そこで、もっと噛み砕いて法的三段論法について説明しようと思います。
法的三段論法を簡単に説明するとということです。
①法の規定の解釈
②法に当てはめるための具体的な事実の確定
③両者の総合から結論を導く
簡単な例をだすと
たとえば女性Aが「夫はしばしば女性Bと一緒に出掛けている、肉体的関係があるかはわからないが自分としては耐えられないから離婚したい」と主張したとする。
民法は離婚の原因として「配偶者に不貞な行為があった時」と規定している。
①法律の解釈:民法による「不貞な行為」が肉体関係が生じる場合だけを指すのかどうかを決める。
②事実の確定:その女性が主張している事実がどこまで真実であるかを確かめる。(証拠が必要である)
③結論を導く:
もし、法律の解釈において、不貞の行為とは肉体関係が生じた場合に限ると解釈され、事実の確定においてその夫は一緒に出掛けている女性Bと肉体関係を生じていないと決定されたとするとその結果として女性Aは離婚を請求する権利がないという結論が導きだされる。※便宜上このような結論になったが、民法はさらに、「婚姻を継続難い重大な事由がある時」にも、離婚を請求できる旨を規定しているため、女性Aが主張する事件について、夫の不貞行為を理由とする離婚請求権は発生しないとしても、婚姻を継続し難い重大な事由を理由とする離婚請求権が発生するか否かをさらに検討しなければならない。
法的三段論法を使う場合は上記のようになります。
ではもう一つの例も見てみましょう。
まず前提として民法709条が定める要件は、
①加害者の行為が故意または過失に基づくこと
②被害者の権利または法律上保護される利益の侵害
③被害者の損害
④①から②、さらに③へと至る経過が因果関係によって結ばれていること
では、「スマートフォンを見ながら歩道を歩いていたA氏が反対方向から歩いてきたB氏に接触して転倒させ、全治2週間の傷害を負わせた」という事実があるとします。A氏の行為は、道を歩く際には前方に注意すべきであるのにこれを怠ったのであるため①の過失に該当します。B氏は人にとって生命に次いで大切な身体を傷つけられているので②にも該当します。また、仮にB氏が受けた傷害のため治療費の支払いを余儀なくされ、あるいは仕事を休まざるをえず、もらえたはずの給料を失ったとすればそれらは③にいう損害にあたります。そして②、③のできごとはA氏が前方を注意していれば避けられたはずであるから④にも該当します。このように、すべての要件の充足が認められると、民法709条が定める効果、すなわちA氏がB氏に対して「損害を賠償する責任」を負うという効果が発生することになるのです。
このように事例問題を書く時には民法の規定を解釈し、主張された事実の真偽を確定し、後者を前者に当てはめて結論を導き出すのです。
法的三段論法に関して有益な記事を出しているのでお時間に余裕のある方はぜひ参考にしてください↓
>> 減点されない法的三段論法の書き方を法学部生がわかりやすく解説
事例問題で注意すべきポイント
さて、事例問題の書き方は分かりましたね。しかし、事例問題はやはり複雑な点が多く、法的三段論法に当てはめるだけでは解けないことも多いので書く時に念頭においておくべき注意点を紹介いたします。
ひとつの条文だけで事例解決できる例は少ないということ。
ある条文を理解するためには、他の条文に対する理解が前提となることも多いのでセットとなる条文に注意しましょう。
任意規定であるか強行規定であるかを考えなければならない
民法に定められていることでも、当事者がこの規定と違った特約をした場合には民法の規定を適用せずにその特約に従う場合があるのです。
任意規定:特約によって改めることができる規定
強行規定:特約によっても改めることができない規定
つまり、任意規定の場合は当事者が規約と違った合意をした場合には規定よりも当事者を優先するということです。
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解釈を要する場合に注意
事例問題を書くにあたって要件が抽象的であることが頻繁にあります。
例えば、民法709条にいう「過失」。「過失」とは、大まかにいうと「不注意で」という意味です。
ある事件において「不注意で」あったかどうかを判断するのは難しいでしょう。
そのため、過失とは、「普通の能力を備えた人であれば尽くすべき注意を尽くせなかったこと」であるなどと、言葉の意味をより具体化させる必要があります。
解釈の方法といっても1つではなく、さまざまな方法があります。
・文理解釈:言葉の辞書的意味を追求するという基本的な方法。
・拡大解釈:辞書的意味よりも広い意味を用いる方法
・縮小解釈:辞書的意味よりも狭い意味を用いる方法
・反対解釈:特定の事項が条文に書かれなかったということは、それを対象にしないという意味であると考える方法。
・類推解釈:条文の背後にあるより一般的な考え方を読み取り、条文の文言が直接には当てはまらなそうな事案にもその一般的な考え方に基づくルールが妥当すると考える方法。
・体系的解釈:他の条文との整合性や、条文が置かれている位置・順序などを手がかりとする方法。
このように解釈にもいろいろなものがあるので、ある解釈の採用によって生じるであろう利害損失を直接的に比較し、適切な解釈方法を選ぶ必要があるのです。
まとめ
本記事では、事例問題の書き方について例を用いて説明しました。
今回はとくに民法の事例問題の書き方について説明しましたが、これは憲法や刑法など他の法科目にも使うことができます。
問題を解けるようにするだけではなく法律のあり方や社会の規範を理解する上でも事例問題を書くことは大いに役に立ちます。
これからも法律に関する知識を多く身につけ、どんどん事例問題に挑戦していきましょう!