大学化学(特に物理化学)では、気体の状態をより正確に表現するための『ファンデルワールスの状態方程式』が登場します。
\( (p + a\frac{n^2}{V^2})(V – nb) = nRT \)
このファンデルワールスの状態方程式は、高校化学で習う『理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\)』を出発として気体分子の分子間力を考慮した補正を行ったものです。
言葉にすると簡単ですが、
- 気体分子の体積や分子間相互作用が気体の状態にどのように影響しているのか、
- ファンデルワールスの状態方程式が何故このような形になっているのか、
- 式中の \(a\) や \(b\) の意味はなんなのか、
疑問を挙げれば様々あると思います。
本記事では、ファンデルワールスの状態方程式の原理や式の意味などについて分かりやすく解説していきます。
理想気体の状態方程式とファンデルワールスの状態方程式との違い
高校化学では、『理想気体の状態方程式 \(PV = nRT\)』が登場します。
この理想気体の状態方程式も、ファンデルワールスの状態方程式と同様に気体の状態(圧力、体積、温度)を表現することができる状態方程式です。
しかしながら、理想気体の状態方程式では現実の気体(以下、実在気体)の状態を正確に表せない場合があります。
その理由は、理想気体の状態方程式は理想状態の気体(以下、理想気体)のみにしか適用できない状態方程式だからです。
理想気体とは、気体分子が体積を持たず、分子間相互作用が存在しないような気体です。しかし、実在気体を構成する気体分子は体積を持っていますし、分子間相互作用も働いています。
つまり、理想気体の状態方程式は気体分子の体積と分子間相互作用を無視した状態方程式であるため、その分だけ計算値がずれてきます。
ファンデルワールスの状態方程式とは、気体分子の体積と分子間相互作用を考慮した気体の状態方程式というわけです。
ファンデルワールスの状態方程式の原理とは?
気体分子の体積と分子間相互作用を考慮した気体の状態方程式のこと
ファンデルワールスの状態方程式は、以下の式のような形をしています。
$$ (p + a\frac{n^2}{V^2})(V – nb) = nRT $$
理想気体の状態方程式 \(PV = nRT\) と比較すると、\(a\frac{n^2}{V^2}\) と \(nb\) の項が追加されています。この項が、気体の体積や気体分子の分子間相互作用を補正するための項です。
しかし、どうして気体の体積や気体分子の分子間相互作用を補正する必要があるのでしょうか。
その理由は、気体の体積や気体分子の分子間相互作用が気体の状態、特に圧力と体積に関係するためです。
気体全体の体積に気体分子の体積が関係することは何となくイメージできると思います。
また、圧力 \(Pa\) とは、力 \(F\) を面積 \(A\) で割ることで算出されるように、『単位面積あたりに作用する力』のことを指します。
例えば、ここに壁があると想定すると、気体の圧力とは『気体分子がどれだけその壁に力を加えたか』のことを指します。
言い換えれば、『気体分子がどれだけ多くその壁に衝突したか』です。
気体分子は空気中を縦横無人に動いていますが、ここにそれぞれの気体分子同士が引きつけ合う分子間相互作用があるとします。
その場合には、気体分子はお互いに動きを抑制するので気体分子の動きは鈍くくなります。そうなると気体分子がその壁に衝突する頻度は低下します。つまり、気体の圧力が低下します。
このように、気体の体積や気体分子の分子間相互作用は気体の体積や圧力に大きく関係していきます。
気体分子の体積はどのように影響する?排除体積とは?
ここでは、気体分子の体積がどのようにして気体の体積に影響しているのかを詳しく解説します。
気体は気体分子によって構成されており、それら気体分子は体積を持っています。一方で理想気体では、この気体分子の体積を無視しています。
気体分子の体積を無視するか、考慮するかによって、気体分子の動き方に違いが生じてきます。
気体分子の体積を無視する場合、気体分子Aは気体分子Bを貫通して空間を移動することができます。
一方で、気体分子の体積を考慮する場合、気体分子Aは気体分子Bと衝突して反発するので、貫通して空間を移動することができません。つまりは、ある気体分子は他の気体分子によって移動できる空間を制限されるということです。
言い換えれば、気体分子は他の気体分子を排除する体積(排除体積)を持っているということです。
気体の体積とは、『気体が動き回ることができる空間の大きさ』と考えることができるので、理想気体に比べて実在気体の体積は低く見積もられます。それを表現するのが、\(- nb\) という訳です。
『b』とは何処から来たのか?
\(- nb\) は排除体積を表現する項ですが、何故このような形になっているのでしょうか。
考えやすくするため、気体分子は完全な球体と仮定します。また、ある気体を構成する気体分子の体積は全て等しいと仮定します。
ここに、半径が \(r\) である二つの気体分子Aと気体分子Bがあるとすると、これらの気体分子が最も近づいた時の距離は、それぞれの気体分子の中心間の距離 \(2r\) です。
つまり、気体分子Aの中心から半径 \(2r\) の領域には他の気体分子が入ることができません。その領域の大きさを計算すると、
$$ \frac{4}{3}π(2r)^3 = 8 × \frac{4}{3}πr^3 $$
となります。これが一つの気体分子が持つ排除体積の大きさです。
ここで、気体分子Aの体積は \(\frac{4}{3}πr^3\) ですので、気体分子一つあたりの体積を \(V_{\text{分子}}\) とすれば、一つの気体分子が持つ排除体積の大きさは \(8V_{\text{分子}}\) と表せます。
分子\(1 mol\) あたりの分子数は \(6.02 × 10^23\) 個、すなわちアボガドロ定数 \(N_A\) に等しい分子数だけ存在するので、気体分子 \(1 mol\) あたりの排除体積は\(8V_{\text{分子}}N_A\) ということになります。これが定数 \(b\) の正体です。
式関係を明確にすると、以下のようになります。
$$ b = 8V_{\text{分子}}N_A $$
つまりは、実在気体は理想気体よりも気体分子の持つ排除体積分 (\(nb\) だけ小さい体積ということを表しているのが、ファンデルワールスの状態方程式における \(V-nb\) という訳です。
分子間相互作用はどのように影響する?
上述したように、気体分子に分子間相互作用が働くことによって気体分子の動きが鈍くなり、その結果として気体の圧力が低下します。
ある気体分子に作用する分間相互作用は、周りにある他の気体分子の数だけ作用します。すなわち、気体分子の数の多さ=気体分子の密度 \(\frac{n}{V}\) によって気体分子間相互作用の大きさは決まります。
また、上述したように気体分子は体積を持つため、全ての気体分子が等しくある壁にぶつかるとも限りません。例えば、ある壁付近にある気体分子がある場合、他の気体分子がその気体分子に衝突してしまい壁に到達することができなくなります。その場合には、気体の圧力は気体分子の数によって影響を受けることになります。
このような気体分子同士の衝突は、やはり周りにある気体分子の数だけ生じると考えられます。すなわち、分子の数の多さ=気体分子の密度 \(\frac{n}{V}\) によって気体分子間の衝突頻度は決まります。
つまり、気体分子の分子間相互作用と気体分子間の衝突の影響によって、気体の圧力も減少しています。気体分子の分子間相互作用と気体分子間の衝突頻度はどちらも気体分子の密度 \(\frac{n}{V}\) に起因するので、実在気体では(気体分子の分子間相互作用)×(気体分子間の衝突頻度)= \((\frac{n}{V})^2\) に起因する分だけ圧力が減少します。
このような作用は気体分子の種類によって変わるので、比例定数 \(a\) を用いて \(a(\frac{n}{V})^2\) として、圧力の補正項としています。
つまりは、\(P_{\text{理想気体}} – a(\frac{n}{V})^2 = P_{\text{実在気体}} \) ということであり、\(P_{\text{理想気体}}\) を \(P_{\text{実在気体}}\) に置き換えた場合に、\((p + a\frac{n^2}{V^2})\) という項が登場するという訳です。
まとめ
以上、ファンデルワールスの状態方程式の意味や式中に登場する補正項の意味について解説しました。
重要な点は、ファンデルワールスの状態方程式はあくまでも近似的な式であるという点です。例えば、比例定数 \(a\) や \(b\) も計算から求めるというよりは、実験的に求めるものです。
一方で、ファンデルワールスの状態方程式を理想気体の状態方程式から自力で求めることができれば、大学化学の内容を理解するための頭脳が完成されつつあるということでもあります。
時間をかけてでもファンデルワールスの状態方程式を理解することが望ましいですが、そのための時間に余裕がない場合には、例えば他に課されている課題やレポートを宿題代行といった業者に丸投げすることもおすすめです。