熱力学の分野では”エンタルピー”と”エントロピー”という単語が登場します。一見すると似たような単語かと思いますが、中身は結構異なります。
”エンタルピー”と”エントロピー”は式として定義が与えられていますが、その意味まできちんと理解している人はそこまで多くないと思います。
本記事では、”エンタルピー”と”エントロピー”を式からだけではなく、そのイメージを掴めるよう分かりやすく解説していきます。
エンタルピーとは?
内部エネルギーと自発的な膨張による仕事の総和
エンタルピー \(H\) は、\(H = U + pV\) で定義されるエネルギー(単位:\(J\)) のことです。ここで、\(U\) は内部エネルギーを示し、\(pV\) は系の自発的膨張による仕事です。
ここで疑問となるのは、”何故、系(物質)の自発的膨張による仕事 \(pV\) の項があるのか”という点だと思います。
以下では、内部エネルギーと自発的膨張による仕事を解説し、エンタルピーの定義が何故上式になるのか導いていきます。
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内部エネルギーとは?
内部エネルギー \(U\) は、その系が持つエネルギーの総和のことです。より詳細には、系にある原子や分子の運動エネルギーと位置エネルギーの合計です。
内部エネルギーはその系の原子や分子のエネルギーのことですから、原子や分子の動きや結合が変化する反応を考える上で重要な指標です。例えば、液体の水が気体の水に状態変化するために必要なエネルギーや、炭素と酸素が結合して二酸化炭素が生じる時に発生するエネルギーなどを考える場合には、内部エネルギーの観点で考えることが有効です。
また、内部エネルギーがゼロということは、原子や分子が全く動いていない状態であり、また他の原子や分子、その他の要因との相互作用も一切働いていない状態です。
逆に言えば、常温にある物質は変化がないからと言って内部エネルギーがゼロという訳ではありません。
温度が絶対零度(約\(-273℃\))ではない時点でどの物質も内部エネルギーを持っています。
自発的膨張による仕事とは?

エンタルピー \(H\) を考える上で、何故、系の自発的膨張による仕事 \(pV\) を考える必要があるかと言うと、結論は物質はエネルギーが加えられると勝手に体積変化するためです。
例えば、水が入った袋を加熱すると、水が蒸発して水蒸気に変化すると共に袋が膨らむと思います。膨張するということは、その系の外界にある空気を押しのけているということなので、膨張するためにはエネルギーが必要となります。
つまり、水が加熱によって水蒸気に変化するとき、水に加えられた熱エネルギーのうち一部が膨張のために使われてしまうということです。
結論:エンタルピーは現実でのエネルギー計算に便利な尺度
以上のように、物質にエネルギーが与えられたとしても、物質はそのエネルギーを使って勝手に膨張してしまいます。
そのため、物質の反応エネルギー変化などを考えるときに内部エネルギーで計算すると、いちいち物質の自発的な膨張による仕事のエネルギーを考えなければなりません。
すなわち、エンタルピー \(H\) とは自発的な膨張による仕事を加味した内部エネルギーを表すエネルギーということであり、物質の反応エネルギー変化などを考える際に便利な尺度という訳です。
エントロピーとは?
分子や原子の分散の度合いのこと
エントロピー \(S\) は、分子や原子がどれだけ乱雑に動いているかを表す尺度です。
例えば、研究者の間では机の上が汚くなっていることを”エントロピーが高い”などと表現することがありますが、これはエントロピーが上記のような状態を表すもののためです。
なお、エントロピー変化 \(ΔS\) は次式のように定義されています。
$$ ΔS = \frac{q_{rev}}{T} $$
ここで、 \(q_{rev}\) は熱として移動したエネルギー、\(T\) はその系の絶対温度です。
エントロピー変化ということなので、この式は例えばAという状態からBという状態になったときのエントロピーの差分を表すものです。そのため、上式は厳密にはある物質のエントロピーを表すものではありません。
それでは、ある状態の物質のエントロピーはどのように考えればよいのでしょうか。
まずは A という分子や原子が完全に停止している状態を考えましょう。この時、分子や原子は全く動いていませんので、それらが持つエネルギーもゼロと考えることができます。
すなわち、状態 A のとき、系のエントロピーはゼロということです。
次に、この A の状態にいくらかエネルギーを与えると、原子や分子のエネルギーが増大し、原子や分子が動き回ります。このような状態をBとしましょう。
上述したように、原子や分子のエネルギーの総和が内部エネルギーです。
今回は系のエネルギーがゼロである状態 A を基準点としてますので、熱として移動したエネルギーはその系のエネルギーの増大した分、すなわちその系の内部エネルギーに相当します。
以上をまとめると、分子や原子が完全に停止している状態 A を基準として考えると、状態 A から状態 B へのエントロピー変化 \(ΔS\) は、
$$ ΔS = S_{after} – S_{before} = \frac{q_{rev}}{T} – 0 = \frac{q_{rev}}{T} = S $$
と考えることができます。
すなわち、ある状態のエントロピーは単純に考えると、その系の内部エネルギーを温度で割ったものと考えることができます。
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何故、エネルギーを温度で割るのか?
分子や原子がどれだけ乱雑に動いているか、これがエントロピーです。
分子や原子が動くためにはエネルギーが必要であり、分子や原子が激しく動いているほどエネルギーが高い、すなわち温度が高いということになります。そのため、エンタルピー変化の定義式には熱として移動したエネルギー \(q_{rev}|) が登場します。
しかしながら、系に投入される熱エネルギー \(q_{rev}|) の大きさが同じでも、対象の系が激しく動いている系か穏やかに動いている系かによって、その熱エネルギーの影響度が異なってきます。
例えば、整理整頓されている机の上が少し汚くなると、非常に汚くなったと感じます。一方で元々汚い机の上が少し汚くなってもそこまで変化を感じません。
同様に、激しく動いている系に多少の熱エネルギーを投入しても系の乱雑さはそこまで変化したように思えませんが、穏やかに動いてる系に多少の熱エネルギーを投入すると系の激しさが増したように思えます。
このように、エンタルピー変化 \(ΔS\) はその系の乱雑さの変化は温度によっては一律ではないため、エネルギーを温度で割ることで、エンタルピー \(S\) に対する温度の影響を加味しているということです。
エンタルピー \(H\) とエントロピー \(S\) の違いとは?
エンタルピーはエネルギー、エントロピーは乱雑さを表す
以上より、エンタルピー \(H\) とエントロピー \(S\) は次のようにまとめることができそうです。
- エンタルピー \(H\):その系(物質)のエネルギーを表す
- エントロピー \(S\):その系(物質)の乱雑さを表す
エンタルピー \(H\) とエントロピー \(S\) は上記の点で異なる尺度ですが、全く関係ないかと言えばそうではありません。
エントロピー \(S\) はその系の乱雑さを表しますが、その系が乱雑であるということはエネルギーが高いということでもあります。
逆に、エンタルピー \(H\) はその系のエネルギーを表しますが、その系のエネルギーが高いということはより乱雑であるということでもあります。
すなわち、エンタルピー \(H\) とエントロピー \(S\) は切り離して考えるようなものではありません。
例えば、ある化学反応が生じるかどうか、を考えるときはエンタルピー \(H\) とエントロピー \(S\) の両方を考える必要があります。本記事では詳細には言及しませんが、ギブスエネルギー \(G\) がこれに相当します。
$$ G = H – TS $$
まとめ
エンタルピー \(H\) とエントロピー \(S\) の違いは何となくでも掴めたでしょうか?
より厳密な話をしようとすると、この記事で収まるようなボリュームではないのでここからは自分で理解を深めていく必要があります。
とは言いつつも、大学レベルともなると独学でマスターすることは非常に困難です。理解が間に合わず、レポートがボロボロになることも珍しくありません。
そんな時は、宿題代行Yattokuのような代行サービスにレポートを依頼することも手段の一つだと思います。
行き詰ったら一人で悩まず、教授や友人、代行サービスなど利用できるものはとことん利用していきましょう。