法学部において、成績評価の多くは学期末の論文試験によって行われます。
しかし、一部の講義ではそのほかにレポートを課されることもあります。
ここでは、刑事訴訟法(以下刑訴法と略します)のレポートを書くにあたって、なにをテーマとすべきかについてヒントとなる詳しい情報を提供し、具体例とともにその書き方について説明します。
テーマ決め
いざ刑訴法に関するレポートを書くように指示されても、そもそもなにを題材として書けば良いのかで迷ってしまうかもしれません。ここでは大きく二つに分けて題材のヒントを紹介したいと思います。
(i)自分の経験したもの
刑事訴訟というと自分には縁のないことのように感じるかもしれませんが、その手順の一つである犯罪捜査は意外と身近なところでも行われています。
例えば、あなたは職務質問を受けた経験がありますか?筆者は深夜に散歩をしていたら警察官に呼び止められ、どこに何をしに行くのか聞かれた経験があります。
職務質問は「警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者(中略)を停止させて質問することができる」と警察官職務執行法2条1項に規定されている警察官の法的な権利です。
しかしながら、職務質問はよく言われるように、いわゆる「任意」で行われるものですから、警察官はいかなる手段を用いても停止させて質問することができる、というわけではありません。では、職務質問はどの程度なら適法で、違法とされた例はどのようなものなのでしょうか。
(ii)ドラマや裁判傍聴
とはいえ、職務質問などの捜査を受けたことのある人はあまり多くないでしょうし、ましてや実際逮捕されたり裁判を受けたりした経験のある人はほとんどいないでしょう。
そこで、刑事手続を客観的に観察することができるのがニュースや裁判傍聴です。
例えば、近年「私人逮捕系YouTuber」がニュースなどで話題になりました。彼らは、自分たちの行為は現行犯逮捕にあたり適法だと主張しますが、彼らのうち一部は暴行や逮捕監禁、名誉毀損などの罪で逆に逮捕されてしまいました。
たしかに、刑訴法213条が「現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。」と規定しているように、私人逮捕(いわゆる現行犯逮捕)は適法な行為です。しかし、刑事ドラマでよく見るように、原則逮捕には逮捕状が必要です。では、刑訴法に認められた逮捕はどのようなものがあるのでしょうか。
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法的三段論法
法的三段論法は法律学における重要な思考プロセスです。これは、個別の問題を解決するために一度ルール(規範)を確立させ、そのルールに個別の問題を当てはめ、結論を出すというものです。
典型的な例としてよく用いられるのが、「ソクラテスは死ぬのか」という問いです。まずこの問題を解決するために、一般的なルールとして、「人は死ぬ」という規範を立てます。そして、このルールに問いの事実を当てはめると、「ソクラテスは人である」となります。すると、「(人である)ソクラテスは死ぬ」という結論が出ました。
このように一度規範を立ててしまうとそれに当てはめるだけで別の事案を解決することもできます。たとえば私もあなたも人ですから、この規範に当てはめると「私もあなたも死ぬ」という結論が導き出せます。
法律学では、この考え方をベースに全ての論理展開を行っていくわけです。
判例
判決もこの法的三段論法に則って書かれているのですが、特に最高裁判所による判決(これを判例と言います)によって示された法律解釈によるルール(規範)は法律の条文に匹敵する意味を持ちます。
ですから、レポートを書く際に、そのテーマに関わる重要な判例を参照することはとても重要といえます。
各種有料の判例データベースだけでなく重要な判例は裁判所のウェブサイトに公開されているため、比較的容易に必要な判例にたどり着くことができるでしょう。
レポートの書き方
では、テーマが決まり、基本の考え方がわかったところで実際にレポートを作成していきましょう。
(i)タイトル・名前
まず、レポートにはタイトルが必要です。
今から何について述べようとするのかを的確かつ簡潔にまとめてください。サブタイトルをつけるとよりわかりやすいタイトルになるかもしれません。
また、そのレポートはもちろん成績評価の対象となるものでしょうから、そのレポートを誰が書いたかを明記することは重要です。学部・学年・学籍番号・氏名を書いておきましょう。
逮捕の種類と要件について〜私人逮捕はどのような場合に認められるのか〜
法学部1年山田太郎(1L123456)
(ii)導入
刑事訴訟法という広範な内容からなぜその内容を選択したのかを説明しましょう。具
体的には、先述のテーマ決めの内容をヒントにして、以降自分がなにを説明していくのかを簡潔に書きます。
近年、私人逮捕系YouTuberの登場により、私人逮捕とはどのようなものか、その成否について争われることが多い。では、刑事訴訟法で認められた逮捕とはどのようなものがあるのだろうか。また、私人逮捕が認められるためにはどのような要件が必要なのであろうか。
(iii)検討
三段論法で書き進めていく第一歩として、まずは規範を立てていくことになります。
具体的には、条文や判例を用いて、言葉の定義や要件、効果について整理しましょう。
刑事訴訟法によると、逮捕は3種類存在する。
まず通常逮捕(199条)とは、被疑者が罪を犯したことを疑うに足る相当な理由があるときに、裁判官の発する逮捕状により検察官や警察などが逮捕することである。
(略)
そして最後に現行犯逮捕とは現行犯人を逮捕することであり、これは逮捕状がなくても、誰でも行うことができる。(213条)いわゆる私人逮捕はこれにあたる。
現行犯人とは、現に罪を行い、または行い終わったものや、誰何されて逃走しようとする時など、罪を行い終わってから間もないことがあきらかな者を指す。(212条)これは、現行犯・準現行犯でその人が犯罪をしたことが確実であることを理由として、逮捕状なく、誰でも逮捕することを許容する趣旨である。判例では、〜(以下続く)
次に、具体的な問題を立てているのであればその問題の検討、そうでなければ細かい要件を検討していきます。
筆者の例にのっとると、筆者は導入で具体的な問題を立てませんでした。ですので、私人逮捕の要件について細かく論じていくことになります。
私人逮捕の要件はどのようなものがあるのだろうか。
刑訴法213条の他にも〜のような要件がある。
では、私人逮捕系YouTuberの「私人逮捕」はどうして違法であるとされたのだろうか。
〜〜の理由により、○○の要件を満たさなかったためだと考えた。
(iv)まとめ
問題と論点、細かい要件を再びおさらいしましょう。
逮捕には〜という種類があり、その中でも私人逮捕というのは刑訴法213条に規定されている。これは現行犯人を逮捕状なく誰でも逮捕できるという規定であるが、その他にも〜という要件がある。〜〜
(v)引用・参考文献
最後に、他の科目のレポート同様、参考文献や引用箇所を適切に明記しなければなりません。これがない場合、剽窃行為(コピーアンドペースト)にあたり重大な制裁を受ける可能性があるため注意が必要です。
法律書や法務省の文書・ホームページを参照した場合、その箇所等を明記してください。インターネット上の情報を参考にした場合は、最終閲覧日も添えることが望まれます。
第212回国会質問主意書(https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/212/syuh/s212015.htm 2024年4月1日最終閲覧)
法律の条文を引用した場合は、最後ではなくその引用箇所にどの法律の何条かを明記します。略称でも許容されます。
ただし、刑事訴訟法のレポートである以上、刑事訴訟法の条文を引用する場合は何条であるかのみを記載すれば足ると解されます。また、判例も同様です。
「現行犯人は(中略)誰でも行うことができる」(213条)
「警察官は(中略)停止させることができる」(警職法2条1項)
「現行犯人とは〜」(最判昭和41年4月14日)
最後に
これらのステップに従って、刑訴法に関するレポートを体系的に書くことができます。
あまり現実社会において馴染みがない分野の法律ですが、意外とテーマは身近なところに潜んでいるかもしれません。
ぜひこのテーマのヒント、書き方を参考に刑訴法のレポート課題を乗り越えましょう。
(ただし、筆者の作成例を丸ごと採用することは剽窃にあたり大学等で処罰の対象となることがあるため絶対に行わないでください)